患者中心型「服薬サポート」の考え方
■ 服薬サポートとは?
服薬サポートとは、従来のいわゆる「服薬指導」や「患者教育」の概念をさらに広げた、薬剤師による患者さんへのサポートコミュニケーションの概念です。
コーチングの考え方をベースとして、「カウンセリング」「コーチング」「ティーチング」「メンタリング」の4つの関わり方(スタンス)を患者さんの状態に
合わせて使い
分けることで、効果的なサポートを実現します。
■ 服薬サポートの目的
服薬サポートの目的は「薬物療法における患者さんの自律」です。「自律」とは、自ら設定した規範に基づき、自分の意思により行動すること。患者さんが受
ける薬物療法に自ら主体的に取り組み、目指す目標(疾病の治癒、維持)の達成を、適切な方法で薬剤師がサポートする、ということです。あくまでも主役は患
者さんであり、薬剤師はサポーターです。
■ 服薬サポートの哲学
服薬サポートの概念の背景には次の3つの哲学が貫かれています。
- すべての患者さんは誰でも、より健康的に、自分らしく生きることを望んでいる
- 患者さんは個々の心身能力に応じて自律できる能力を持っている
- 薬物療法における患者さんの自律は、薬剤師の関わりによって可能となる
すなわち、患者さん自身が本来持っている「健康的に自分らしく生きたい」という思いを顕在化すること、そのための行動(服薬、生活療法等)を、患者さん
の心身能力に応じて患者さん本人、医療提供者、家族、社会が役割分担し全うすること、薬物療法においては薬剤師がそのサポートにおいて中核的な役割を果た
すこと、を前提としています。
■ 服薬サポートのフレームワーク
服薬サポートにおける4つのサポートコミュニケーションのフレームワークは次の図のように表されます。

服薬サポートのパラダイム
服薬サポートでは、患者さんの現状を「自己認識度」と「健康への価値観」の二つの軸で捉えます。「健康への価値観」とは、患者さんの目指す「健康への意
識レベル」「自己認識度」とは、患者さんが理解し受け容れている「病識、薬識、自分の置かれる社会的な立場に対する認識」を指します。
自己認識度が高まるにつれ、患者さんは健康への価値観をより鮮明にし、「あるべき自分の姿」を明確にすることで、薬物療法に対して主体的に関わるように行
動変容することが
期待できます。
4つのサポートコミュニケーション
- 1)カウンセリング・スタンス
- 「症状も出ていないのに、本当に自分は病気なのか?」「以前薬で副作用が出たことがある。この薬は大丈夫なんだろうか?」「タ
バコを控えろ、カロリーを減らせ、といっても、付き合いがあるしそう簡単には・・・」といった患者さんの声を良く聴きます。患者さんは、たとえ自分の疾病
や服用する薬について説明を受けたとしても、それを受け容れているとは限りません。自分の病気や服用する薬、生活の変容に対する不安大きく、「今の自分を
受け容れ難い」状態では、どんなに情報提供や生活指導をしたとしても、患者さんが実際に行動に移すことは困難でしょう。
カウンセリング・スタンスの目的は患者さんが「ありのままの自分」を受け容れる、いわば患者さんの「自己認識」にあります。そのためには、まず何よりも
患者さんとの信頼関係を構築すること。そして、情報提供や指導は最小限に留め、傾聴、共感、受容により、患者さんの「今の気
持
ち」を受け止めることにポイントをおいた関わり方が中心となります。
- 2)ティーチング・スタンス
- 患者さんが自分の現状を受け容れ、「まあ、病気になってしまったものはしょうがない。ではどうすればよいのか」という段階にな
れば、自分の健康への価値観も高まり、自分の受ける医療に対する積極性が向上します。ティーチング・スタンスは従来の「服薬指導」「情報提供」「患者教
育」に当たる部分です。患者さんの自律に向けた取り組みの初期段階では、必要十分な
情報提供、指導による「服用方法」や「服用上の注意点と対処法」「生活習慣上の留意事項」を患者さんと共有することが大切です。
医療というサービスは提供者側(医療機関、薬局)と消費者(患者さん)とでは大きな情報格差が存在します。双方が効果的なパートナーシップを結び、とも
に疾病の治癒、維持という目標に向けて進むためにも、個々の生活パターンや学習スタイルにマッチしたスタイルでの「患者教育」「服薬指導」が重要です。
- 3)コーチング・スタンス
- 「わかっているんだけど、薬を飲み忘れてしまう」「運動したいと思っているんだけど、なかなか時間が取れなくて・・・」といっ
た患者さんには、コーチング・スタンスで関わることが有効です。このような患者さんは、「指示通りに薬を服用すること」や「治療上、あるいは健康維持のた
めに運動が必要であること」は、ティーチングを経てすでに理解しています。しかし「わかっていること」、と「できること」、更には「実行していること」、
とは別物です。コーチン
グ・スタンスはは、確実な服用、副作用の認識と対処、生活療法といった効果的な薬物療法のための「行動」を、患者さんの意志に基づきサポートしていきま
す。
患者さんが薬を飲み忘れる要因は何か?何があればきちんとのめるのか?患者さんは運動のために、いつどの程度時間を割きたいのか?どんな運動をしたいの
か?これらは「患者さん自身が知っている」ことです。コーチング・スタンスとは、患者さんとの対話を通じてこれらを明らかにしていくことで、患者さん自身
が自らの行動を決定していくことに他なりません。いわば「自己決定・自己責任による行動変容」のお手伝いをすることなのです。そうすることで患者さんは、
自分の価値観やライフスタイルにマッチした方法で、自分の健康のために「するべきこと」を自らの意志で「実行」します。これが「患者さんの自律」です。
近年は「医療提供者の指導を患者さんが服従的に遵守する」ことを意味する「コンプライアンス」よりも、「患者さんの意志に基づく、自ら受ける医療へ
の納得と定着」を意味する「アドヒアランス」という言葉が使われるようになってきました。現在はこの概念をさらに進め、「患者さんの価値観を尊重した、薬
物療法
における患者さんと医療提供者との合意」を意味する「コンコーダンス」という考え方が提唱されています。まさしくコーチング・スタンスが不可欠な概念だと思いま
す。
- 4)メンタリング・スタンス
- メンタリングとは「手本となる人が助言する」という意味です。「自律する」ためには「必要なサポートを自ら求め手に入れる」こ
とも重要です。患
者さん自身が自ら取り組む薬物療法や生活療法に対して疑問を解決していく手段として、本を調べたりインターネットで情報検索をしたり、所属する患者団体で
情報交換をしたり、といった方法もあるでしょう。中でももっとも確実で安心できる相談相手として、医師や薬剤師に助言や情報提供を求めることがあります。
このときに自分自身の知識と経験を基に薬剤師として必要なサポートをしていく役割を果たすのが、服薬サポートにおけるメンタリング・スタンスです。